今回は、前回扱ったassets(資産)、liabilities(負債)、equity(持分)、income(収益)、費用(expenses)の補足です。やや細かい話になりますので、読み飛ばしていただいて結構です。

■ 資産・負債・資本

前回説明したとおり、概念フレームワークでは資産は以下のように定義されています。

 An asset is a resource controlled by the entity as a result of past events and from which future economic benefits are expected to flow to the entity.

 

上記の定義では、future economic benefits(将来の経済的利益)が企業に流入することが見込まれることが資産の要件になっています。そして、フレームワークではこれをさらに具体的に以下のように規定しています。 

In particular, the expectation that future economic benefits will flow to or from an entity must be sufficiently certain to meet the probability criterion in paragraph 4.38 before an asset or liability is recognised.

 

資産の場合、将来期待される経済的利益の流入(負債の場合は流出)について、段落4.38の条件に合致することが要求されます。この段落4.38では財務諸表項目の認識(recognition)が定義されますが、こちらは次回扱います。


また、資産・負債・資本の定義に当てはまるかどうかは、法的形式だけでなく、根底にある経済実態に注目すべきということも記載されています。

In assessing whether an item meets the definition of an asset, liability or equity, attention needs to be given to its underlying substance and economic reality and not merely its legal form.



前回、Equity(持分)は資産から負債を差し引いた「残余」なので「単数形である」というお話をしました。しかし実際は、貸借対照表において「持分」はいくつかに細区分(株主資本、利益剰余金・・・)されて表示されます。

Although equity is defined in paragraph 4.4 as a residual, it may be sub-classified in the balance sheet.

 

■ 収益・費用

損益計算におけるIncomeは、RevenueとGainsに区分されるということです。日本語ではIncomeとRevenueを明確に区別する適切な訳語がないので、Income=広義の収益、Revenue=狭義の収益とします。そうすると、Income(広義の収益)=Revenue(狭義の収益)+Gains(利得)となります。Revenueは企業の通常の活動によって生じるものです。

The definition of income encompasses both revenue and gains. Revenue arises in the course of the ordinary activities of an entity and is referred to by a variety of different names including sales, fees, interest, dividends, royalties and rent.

 

他方、Gains(利得)は以下のように、Revenueの条件を満たさないIncome(広義の収益)として定義されます。Gains(利得)の具体例としては、固定資産や投資有価証券の売却益があります。

Gains represent other items that meet the definition of income and may, or may not, arise in the course of the ordinary activities of an entity. Gains represent increases in economic benefits and as such are no different in nature from revenue. Hence, they are not regarded as constituting a separate element in this Conceptual Framework.

 

要するにIncome(広義の収益)=Revenue(通常の活動から生ずるもの)+Gains(通常の活動以外から生ずるもの)ということになります。


Expenses(費用)も同様に、Expenses(狭義の費用)とLosses(損失)に区分されます。Expensesは企業の通常の活動によって生じるもの、Lossesはそれ以外の理由で生じるものです。
すなわち、
Expenses(広義の費用)=Expenses(通常の活動から生ずるもの)+Losses(通常の活動以外から生ずるもの)
となります。

The definition of expenses encompasses losses as well as those expenses that arise in the course of the ordinary activities of the entity. Expenses that arise in the course of the ordinary activities of the entity include, for example, cost of sales, wages and depreciation. They usually take the form of an outflow or depletion of assets such as cash and cash equivalents, inventory, property, plant and equipment.


上記の定義は何となくわかりにくいのですが、実はIFRSでは上記で説明した項目(収益や費用の区分)について、あまり厳密に考えていないのです。というのも、Gains(利得)やLosses(損失)は、economic benefit(経済的利益)を増加あるいは減少させるという点では、revenue(狭義の収益)やexpenses(狭義の費用)と何ら変わりがないからです。経済的利益の増減自体に着目し、内容は細かく区分しないということがIFRSの特徴となっているのです。

 上記に関連して、日本の会計基準や米国会計基準(USGAAP)には特別損益項目(特別利益・特別損失)がありますが、IFRSでは特別損益項目を認めていません。Frameworkの記述からもその理由がうかがえます。


今回は以上です。

●The elements of financial statements(財務諸表の要素)

 今回は概念フレームワークの6回目。ようやく財務諸表の内容に入ります。なお、これ以後は、1989年に作成された概念フレームワークが現在でもそのまま残っています。

Frameworkの4.2では、以下のように記載されています。

Financial statements portray the financial effects of transactions and other events by grouping them into broad classes according to their economic characteristics. These broad classes are termed the elements of financial statements. The elements directly related to the measurement of financial position in the balance sheet are assets, liabilities and equity. The elements directly related to the measurement of performance in the income statement are income and expenses. The statement of changes in financial position usually reflects income statement elements and changes in balance sheet elements; accordingly, this Conceptual Framework identifies no elements that are unique to this statement.

 貸借対照表におけるfinancial position(財政状態)に関連する項目としてassets(資産)、liabilities(負債)、equity(持分)が、損益計算書におけるperformance(業績)に関連する項目としてincome(収益)、費用(espenses)が挙げられています。

  

● Financial position(財政状態)

 ここでは、貸借対照表を構成する資産Assets(資産)、Liabilities(負債)、Equity(持分)の概念が説明されます。

 The elements directly related to the measurement of financial position are assets, liabilities and equity.

 

 まず、資産です。簡単に言えば、資産とは過去に行われた支出であって企業がそれを自由に利用でき、かつ、将来企業にeconomic benefits(経済的利益)をもたらすことが期待される資源です。Frameworkでは以下のように定義されています。


 工場を例にとります。企業は、工場で生産した製品を販売することで、利益を生み出します。したがって、工場の土地、建物、設備、在庫等は資産になるわけです。一方、在庫が陳腐化してまったく売れる見込みがなくなってしまえば(経済的便益が得られませんので)資産には該当しないことになります。 この場合には、資産の価値が引き下げられ、損失が計上されます。

 

 次は負債です。 簡単に言えば負債とは、過去の事象(=取引等)から生じた現在の債務で、この債務を決済(返済)にあたって、企業の有する資源(資金)の流出を伴うものです。Frameworkでは以下のように定義されています。

 A liability is a present obligation of the entity arising from past events, the settlement of which is expected to result in an outflow from the entity of resources embodying economic benefits.


 例えば、信用で商品を購入すると支払期日までに供給業者(suppliers)に対して代金を支払う義務が生じます。すなわち、「買掛金」は、その返済のために現金流出を伴いますから負債となるわけです。

 

 次は持分です。持分とは、企業の持つ資産から負債を差し引いた残余の持分(residual interest) です。FrameworkではEquity(持分)を差額概念として定義しています。

Equity is the residual interest in the assets of the entity after deducting all its liabilities.

 

ちなみに、interestには興味や利息といった意味の他に、上記のように「分け前(持分)」という意味もあります。

 

● Performance(業績)

次は、損益計算書の構成要素である収益(income)と費用(expense)です。Frameworkには以下のように記載されています。

 Profit is frequently used as a measure of performance or as the basis for other measures, such as return on investment or earnings per share. The elements directly related to the measurement of profit are income and expenses. The recognition and measurement of income and expenses, and hence profit, depends in part on the concepts of capital and capital maintenance used by the entity in preparing its financial statements.

 

 

 capital maintenance(資本の維持)という概念は後に説明するとして、業績(performance)や利益(profit)を測る要素として「収益」と「費用」があるということが書かれています。

 

 まず収益です。収益とは、ある会計期間において資産の流入・資産価値の増加または負債の減少といった形で現れる経済的利益の増加で、出資者からの拠出(資本の払込)以外の原因で持分の増加を伴うものです。Frameworkでは以下のように定義されています。

 Income is increases in economic benefits during the accounting period in the form of inflows or enhancements of assets or decreases of liabilities that result in increases in equity, other than those relating to contributions from equity participants.

収益の具体例としては、商品の販売収益を思い浮かべれば上記の概念は理解できると思います。なお、損益計算書は期間損益を表現しますので、accounting period(会計期間)という用語が登場します。また、会社の設立や増資等による持分増加は、いわゆる資本取引ですから収益にはなりません。

 

 次は費用です。費用とは、ある会計期間において資産の流出・資産価値の減少または負債の発生といった形で現れる経済的利益の減少であり、出資者に対する分配以外の原因で持分の減少を伴うものです。Frameworkでは以下のようになっています。

 Expenses are decreases in economic benefits during the accounting period in the form of outflows or depletions of assets or incurrences of liabilities that result in decreases in equity, other than those relating to distributions to equity participants.

 

 

 費用の具体例としては、人件費(給与)を思い浮かべれば上記の概念は理解できると思います。なお、出資の払い戻しや配当による持分減少は費用にはなりません。

 

さて、今回はこれで終わりですが、最後に英語の単数・複数のお話を・・・。

資産=Assets、負債=Liabilitiesは通常複数形になります。資産には現金預金・売掛金・棚卸資産・土地等様々な形態があります。一方、負債には買掛金・借入金・預かり金・未払金・借入金等の形態があります。資産や負債の形態は複数ありますので複数形になるわけです。

一方、持分=Equityは単数形です。 これは、持分が(会社を清算した結果の)残った財産を意味するからです。すなわち、様々な資産や負債を整理して最後に残ったものが持分ということになりますので、持分の形態(内容)はすでに問題ではなくなっているということで、単数形になっているわけです。なお、equitiesと複数形にしてしまいますと、普通株式を意味しますので注意が必要です。

 

 An asset is a resource controlled by the entity as a result of past events and from which future economic benefits are expected to flow to the entity.

今回は、IFRSの5回目。「情報の制約要因」と「基礎となる前提」です。


★ The cost constraint on useful financial reporting( 有用な財務情報に関するコスト制約)

 簡単に言うと、、財務情報の提供にはコストがかるのでコストが(情報提供の)制約要因になるということです。必要以上に詳細で厳密な情報収集を行って財務諸表を作成すれば、企業の費用負担は膨大なものになります。逆に、必要な情報が提供されなければ、情報の利用者が(自力で情報を探すなど)不利益を被ります。要は、情報の提供者・利用者双方の費用対効果を勘案する必要があるということになります。


★ Underlying Assumptions(基礎となる前提)

 財務諸表の基礎となる前提として従来のFrameworkでは、①Going Concern(継続企業)と②Accrual Basis(発生主義)が挙げられていました。

 実はこの部分は現在改訂途中になっており、現行のFrameworkの本文では①のGoing Concern(継続企業)だけが暫定的に残っています(Accrual Basisについては、改訂後のFrameworkの他の場所で説明されています。)これは、進行中の改訂作業で「FrameworkからUnderlying Assumptions(基礎となる前提)という項目自体をなくしてしまう」という方向が示されたからです。

 とは言え、こうした前提自体が無くなってしまうということではありません。実は、IAS(国際会計基準)第1号(Presentation of Financial Statements:財務諸表の表示)の方に、発生主義や継続企業を含めていくつかの基礎となる前提が説明されており、恐らく、こちらの方へ集約することになると思われます。

Frameworkの解説ということからすると、(将来なくなる可能性の高い)この項目の説明は不要なのかもしれませんが、一応、従来のFrameworkに則って2つの基礎的な前提を説明します。

(1)Accrual Basis(発生主義)

発生主義とは、会計上の取引は現金の入出金に関わらず、その取引が発生した時点で認識され、会計帳簿に記録されるという考え方です。例えば、商品を購入する契約を締結した場合、現金の支払いがなくても)「仕入」と「買掛金(仕入債務)」を取引として記録するということです。

(2)Going Concern(継続企業)

 継続企業の前提とは、企業は清算を予定しておらず、将来にわたって事業活動を継続するという前提です。通常は、継続企業の前提に基づいて財務諸表が作成されますが、仮に近い将来清算又は事業の大幅縮小が想定される場合、継続企業とは異なる前提で財務諸表が作成されることになります。すなわち、継続企業の前提が失われると、企業の継続価値でなく清算価値が焦点となりますので、貸借対照表項目をすべて時価で評価するといったことになります。

今回は以上です。

★ 基本的特性を補完する4つの特性

 前回から随分時間が経過してしまいましたが、今回は前回とりあげた基本的特性である、① Relevance(目的適合性)と②Faithful Presentation(表現の忠実性)を補完する4つの特性を紹介します。4つの特性は、(イ) Comparability(比較可能性)、(ロ) Verifiability(検証可能性)、(ハ) Timeliness(適時性) (ニ) Understandability(理解可能性)です。


(イ)Comparability(比較可能性)

  比較可能性とは、他企業との企業間比較や(同一企業の)期間比較を適切に行うことができるということです。比較可能性と似ている概念として、Consistency(継続性)があります。Consistency(継続性)とは、一度採用した会計方針は(正当な理由がない限り)変更してはならないという原則です。例えば、減価償却方法を「去年は定額法、今年は定率法、来年は定額法・・・」などと恣意的に変更してしまうと、期間損益が大きく歪められ、比較可能性が確保できなくなります。Consistency(継続性)は、、Comparability(比較可能性)という目的を達成するのに役立つものです。


(ロ)Verifiability(検証可能性)

 この概念はちょっと分かりにくい概念です。Verifiability(検証可能性)という概念は、従来の概念Frameworkにはなかった概念で、米国の会計基準設定主体であるFASBのFrameworkから取り入れられた概念です。

 Verifaibility(検証可能性)とは簡単に言えば、様々な知識レベルを持つ独立した財務諸表利用者が到達する一定のConsensus(合意)を意味します。単純な例で説明すると、ある企業の財務諸表に現金が100万円計上されているとします。このことは「実際に現金を数えれば、誰が数えてもピッタリ100万円になる。」ということです。Aさんが数えると99万円、Bさんが数えると101万円になってしまうようでは、Verifiability(検証可能性)が確保されているとは言えません。

 もうひとつ例を挙げます。財務諸表では期末在庫が5,000万円と計上され、この会社は棚卸資産の評価方法として「先入先出法」を採用しているとします。この場合には、一定の情報(単価と数量の情報)が与えられれば、(先入先出法という前提で)誰が計算しても期末の在庫は5,000万円になるということです。

 以上2つは単純な例ですが、実際には会計上の見積もりや判断を伴うことが多いので、必ずしも万人が合意できるケースばかりではありません。例えば、2番目の例では、(その会社の業績を適正に示すには)先入先出法ではなく、(移動)平均法の方が良いと考える人が少数ながら居るかもしれません。その場合でも、検証可能性が一応確保できていると考えられます。


(ハ)Timeliness(適時性)

Timeliness(適時性)とは、情報の迅速性のことです。財務諸表利用者が経済的意思決定を行う際、意思決定に影響を与える情報が意思決定時点で利用可能であるか否か、ということです。


(ニ)Understandability(理解可能性)

 簡単に言えば、財務諸表利用者にとって理解し易いような情報を提供するということです。明確でかつ簡潔に財務情報を分類・表示することによって、財務情報は理解し易くなります。


前回と今回の内容をまとめると下記の図のようになります。

IFRS_2.jpg 

前々回から複数回にわたって、IFRSを理解する上で重要な概念フレームワーク(以下、フレームワーク)の内容を扱っています。今回は財務諸表が提供する有用な情報の特性についてです。抽象的な概念が幾つも出てきてちょっと混乱しますが、できる限り整理して解説したいと思います。


★ 有用な情報の質的特性


 経済的意思決定に有用な情報の質的特性とはどのようなものでしょうか?
フレームワークでは、有用な情報の基本的特性として2つの特性を挙げています。それは、①Relevance(目的適合性)と②Faithful Presentation(表現の忠実性)です。大雑把に言えば、①財務諸表利用者のニーズに合った情報(=目的適合性)が、②漏れなく・誤り無く・客観的に提供されること(=表現の忠実性)を意味します。

一方、基本的特性を補完する特性として、(イ) Comparability(比較可能性)、(ロ) Verifiability(検証可能性)、(ハ) Timeliness(適時性) (ニ) Understandability(理解可能性)という4つの条件が紹介されます(こちらは、次回扱います)。

原文では以下のように書かれています。

If financial information is to be useful, it must be relevant and faithfully represent what it purports to represent. The usefulness of financial information is enhanced if it is comparable, verifiable, timely and understandable.

 

Relevance(目的適合性)

財務情報が財務諸表利用者の経済的意思決定に役立つ場合、財務情報は目的適合的であるいいます。そのためには、財務情報が、①Predictive Value(予測的価値)と②Confirmatory Value(確認的価値)を持つことが必要となります。

簡単に言えば、財務情報が将来予測に役立つ情報(=予測的価値)や過去に行った判断の確認や修正に役立つ情報(=確認的価値)を持っているかどうか、ということです。予測的価値を持つ情報と確認的価値を持つ情報とは相互に関連していて、特に、予測的価値を持つ情報は確認的価値を併せ持っているとされます。すなわち、予測的価値を持つ情報は将来予測に役立つ一方、(これを)過去に行われた予測と比較することで、過去に行った予測の修正や改善に役立つことになります。

 

■ Faithful Presntation(表現の忠実性)

財務報告は経済的事象を忠実に表現することが求められますが、その要件として、①Completeness(完全性)、Neutrality(中立性)、Free from error(間違いが無いこと)が挙げられています。完全性とは、財務諸表利用者が必要とする情報がすべて含まれていることを意味します。中立性とはバイアスが無いことを意味します。

一方、「間違いが無い」ということは、財務情報がすべての面で正確であるということではありません。財務諸表作成プロセスに誤りが無いということを意味します。例えば、客観的な市場が無い資産の時価算定を考えます。このような場合、正確な時価を算定することは不可能です。だからといって、いい加減な評価をしてよいということではありません。様々な情報を入手して、可能な限り合理的な方法で時価を算定する必要があります。こうした時価算定プロセスが誤りなく適用されていることが必要となるのです。

 

■ 有用な情報を持つ財務諸表の作成プロセス

情報が有用であるためには、Relevance(目的適合性)とFaithful Presentation(表現の忠実性)の両方の要件を備えている必要がありますが、そのためには以下のような手順に従って、財務諸表を作成する必要があります。

(1) 財務情報の利用者にとって有用となる考えられる経済的事象を特定する

(2)情報が入手可能で、忠実に表現できるとした場合、当該経済事象と最も関連性のある情報を特定する

(3)その情報が実際に入手可能で、忠実に表現できるかどうかを判定する

 

■ Materiality(重要性)

ここまで、情報の有用性の条件として①目的適合性と②表現の忠実性という概念を説明しました。

今度は重要性という概念について説明します。会計実務や会計監査実務において、「重要性」という概念がしばしば登場しますが、一般的にはかなり分かり難い概念だと思われます。

もしその情報が欠落していたり、誤って表示されていたりすると、財務諸表利用者の意思決定に影響を与える場合、その情報は重要であると言います。

簡単な例を挙げましょう。総資産1,000億円、自己資本300億円、売上高2,000億円、当期利益が150億円という会社(A社)があったとします。A社の現金預金残高は財務諸表ではピッタリ100億円となっていますが、実は後からミスが発覚し、本当は100億10万円であることが分かりました。言い換えると、10万円だけ現金預金残高が過少になっています。これは、A社の財務諸表に間違いがあったことを示しています。しかし、このような間違いがあっても、A社の財務諸表の利用者の意思決定に影響を及ぼすことはないでしょう。このような場合、(財務情報に)重要性はないということになります。

上記の例は、恐らく万人が「重要性なし」と判断する例だと思います。しかし、実務ではかなり微妙なケースが出てきます。注意すべきなのは、(重要性の基準は)個々の会社によって異なるということです。重要か否かは、金額の大小や誤りの性質によっても異なるります。したがって、売上高や総資産等から自動的に「重要性の金額は●●円になる」などというわけにはいきません。


次回は、有用性を補完する特性である、(イ) Comparability(比較可能性)、(ロ) Verifiability(検証可能性)、(ハ) Timeliness(適時性) (ニ) Understandability(理解可能性)という4つの特性を取り上げます。

前回から複数回にわたって、IFRSを理解する上で重要な概念フレームワーク(以下、フレームワーク)の内容を扱っています。今回はフレームワークの内容の1番目、財務諸表の目的です。なお、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同して、現在フレームワークの改訂作業を行っています。改定された部分(一部)が昨年公表されていますが、以下の説明は基本的に従来のフレームワーク(1989年)を前提にしています。

 

1.財務諸表の目的
財務諸表の目的は、財務諸表の利用者が経済的意思決定(Economic Decisions)を行う際に有用な情報を提供することです。原文では以下のように書かれています。

The objective of financial statements is to provide information about the financial position, performance and changes in financial position of an entity that is useful to a wide range of users in making economic decisions.

前回も述べましたように、財務諸表の利用者(利害関係者)は多岐にわたるので、すべてのニーズを満たすことはできません。そこで、大半の利用者の要求を満たすであろう最大公約数的な情報提供を行います。この情報とは、経済的意思決定を行うための企業の財政状態、経営成績、財政状態の変動に関する情報となります。

財務諸表は経営者の受託責任(Stewardship of Management)や経営者の説明責任(Accountability of Management) の結果を示すものでもあります。例えば、企業が(1年間で)どれだけ儲かったのか、保有する資産を活用して効率的な経営を行ったのか、株主への還元策(配当等)は適切か、といった情報を提供する必要があるわけです。財務諸表は、こうした経営者の責任の遂行状況を評価する上でも重要な役割を果たします。経済的意思決定には、その企業への投資を継続するか否か、経営者を再任するか交代させるかといったものも含みます。

 

 

2.財政状態・経営成績及び財政状態の変動について

財務諸表の利用者が行う経済的な意思決定を行う上で最も基本的かつ重要な情報とは何でしょうか? それは(理論的には) 現金(≒利益)を生み出す力です。いつ、どれだけのキャッシュフローを生み出すか、そして、その可能性(確実性)はどの程度か、といったことが経済的意思決定には不可欠な情報となります。そして、財務諸表は、企業が現金をいつ、どれだけ生み出すのか、そしてその可能性は高いのか低いのかといった情報を提供する役割を担っているわけです。原文では以下のように書かれています。

The economic decisions that are taken by users of financial statements require an evaluation of the ability of an entity to generate cash and cash equivalents and of the timing and certainty of their generation.

こうした経済的意思決定を行うための財務情報は3つに分類されます。一つ目は企業の財政状態(Financial Position)に関する情報です。これは主に貸借対照表(Balance Sheet)あるいは財政状態計算書(Statement of Financial Position)によって提供されます。二番目は、経営成績(Performance)に関する情報で、これは主に損益計算書(Income Statement)あるいは包括利益計算書(Statement of Comprehensive Income)によって提供されます。三番目は、財政状態の変動(Changes in the Financial Position)に関する情報です。典型的には株主持分変動計算書(Statement of Changes in Equity)によって提供されます。なお、現在ではStatement of Cash Flows(キャッシュフロー計算書)が基本財務諸表の一つになっています。

重要なことは、これらの財務諸表は相互に関連しているということです。これらの財務諸表は単一目的のために利用されるものでなく、また、特定の利用者のすべてのニーズを満たすものでもありません。原文では以下のように書かれています。

The component parts of the financial statements interrelate because they reflect different aspects of the same transactions or other events. Although each statement provides information that is different from the others, none is likely to serve only a single purpose or provide all the information necessary for particular needs of users.

結局、一つの財務諸表だけを見て(企業の姿が)分かるというものではなく、これらの財務諸表の関連性を十分理解して、組み合わせて利用する必要があるということでしょうか。

また、財務諸表には、上記の財務諸表の他に、注記(Notes)や、補足明細表(Supplementary Schedules)が含まれます。


今回取り上げた財務諸表の目的は、昨年公表されたフレームワークでは大幅に書き換えられていますが、内容的には大幅には変わっていないと考えられます。改定後のフレームワークにおける財務報告の目的で重要な点は以下のとおりです。

 ① 財務諸表の利用者は、企業に資金を提供する投資家、貸付業者、債権者などの外部者であり、これらの利害関係者の経済的意思決定に有用な情報を提供することが財務報告の目的である。
 
 ② 上記の利害関係者は意思決定に際し、将来キャッシュフローの金額や発生時期、不確実性に関する情報を必要としている。

 ③ 財務報告(財務諸表)のかなりの部分は、会計数値の正確な表現というより、見積りや判断あるいはモデルに基づいている。フレームワークはこれらの基礎となる概念を確立する。


次回は、上記の財務諸表(Financail Statements)が扱う財務情報の質的特性と制約(Qualitative characteristics and Constraints)についてとりあげます。

今回から数回にわたって、IFRSを理解する上で重要な概念フレームワーク(以下、フレームワーク)の内容を見ていきます。今回はフレームワークのIntroductionの部分です。なお、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同して、現在フレームワークの改訂作業を行っています。改定された部分(一部)が昨年公表されていますが、以下の説明は基本的に従来のフレームワーク(1989年)を前提にしています。

1.フレームワークの目的

フレームワークは、財務諸表を作成・開示する際の基本的概念を提供するものです。フレームワークは、新しい国際会計基準を作成したり、現行の国際会計基準を修正したりする際の指針としても役立つものであるとともに、財務諸表の利用者が財務諸表を解釈したり、あるいは会計監査人(公認会計士や監査法人等)が「財務諸表がIFRSに準拠して作成されているか否か」を判断をする(=監査意見を形成する)際にも役立つなどといった様々な目的があるとされています。

ここで一つ注意すべきことは、フレームワークはIFRSの一部ではないことです。フレームワークは、会計上の特定項目に関する測定や開示については何も規定していません。また、国際会計基準とフレームワークの規程が異なっている場合には、国際会計基準が優先して適用されることになります。実際のフレームワーク(英文)には、下記のように記載されています。

This Framework is not an International Accounting Standard and hence does not define standards for any particular measurement or disclosure issue. Nothing in this Framework overrides any specific International Accounting Standards.

 

The Board of IASC recognises that in a limited number of cases there may be a conflict between the Framework and an International Accounting Standard. In those cases where there is a conflict, the requirements of the International Accounting Standard prevail over those of the Framework.

 

2.フレームワークの範囲

財務諸表(Financial statements)には、貸借対照表(Balance Sheet), 損益計算書(Income Statement), キャッシュフロー計算書(Statement of Cash Flows)に加え、注記(Notes)や補足明細表や補足情報(Supplementary Schedules and Information) といったものがあります。こうした財務諸表は、(会社内部で使われることはあるものの)基本的には外部公表のため作成されます。フレームワークでは財務諸表の利用者として主に投資家(Present and Potential Investors)が想定されています。

もちろん、投資家以外にも、従業員(Employees)、金融機関等のお金の貸し手(Lenders)、供給業者(Suppliers)、顧客(Customers)、政府や政府機関(Government and their Agencies)といった利害関係者(Stakeholders)も財務諸表の利用者として考えられます。しかし、すべての利害関係者の要求を完全に満足させるような(単一の)財務諸表は作ることはできません。一方、すべての利用者に共通する(最低限の)要求水準を満たす財務諸表を作成することは可能です。そこで、企業に対する資本(Risk Capital)の提供者である投資家のニーズを満たすような財務諸表を作成することになります。投資家のニーズを満たす財務諸表は、他の利害関係者の基本的なニーズも満たすことが出来ると想定されています。

As investors are providers of risk capital to the entity, the provision of financial statements that meet their needs will also meet most of the needs of other users that financial statements can satisfy.

 

フレームワークで取り扱うのは、以下の4つであり、この内容がフレームワークの中心になります。
(1) 財務諸表(財務報告)の目的
(2) 有用な財務情報の質的特性および制約
(3) 基礎となる前提
(4) 財務諸表の構成要素の定義、認識、測定
(5) 資本と資本維持の概念


次回からは、フレームワークの内容を少し細かく見ていきたいと思います。

今回は、平成23年度税制改正大綱の中から行政処分手続きの改正(理由附記)とそれに伴う白色申告者の記帳義務を取り上げます。


1.行政処分手続きの改正
白色申告の場合、税務調査によって追加の課税が行われる場合、現行制度では理由を示さなくてもよいことになっています。一方、青色申告の場合には理由付記をするのが原則なのですが、実際上は納税者が自主的に修正申告を行うため、「理由附記」が行われることは基本的にありません。今回の改正では、原則としてすべての行政処分について 「理由附記」が必要となります。


2.白色申告者の記帳義務等
税務署等が行政処分において「理由附記」を行うということは、他方で(理由を明らかにするために)納税者側も会計帳簿や基礎となる証拠資料を作成・保管しておく必要性があることを意味します。そこで、個人の白色申告者についても 記帳義務・記録保存義務が拡大されることになります。現行では、確定申告を行った所得300万円超の白色申告の個人には記帳義務・記録保存義務が課されていますが、それ以外の方についても、平成25 年1月から同程度の記帳義務・記録保存義務が課されることになります。

仮にこの改正が行われた場合、白色申告のメリット(簡便性)は薄れることから、 青色申告への移行の検討が必要かもしれません。

前回に引き続き平成23年度税制改正大綱に関する話題で、今回は法人税と消費税です。
改正の概略のみ示しました。

【ポイント】
 
Ⅰ法人税


1.法人税率
  現行 改正案
800万円超 800万円以下 800万円超 800万円以下
普通法人
(資本金1億円超)
30% 25.5%
中小法人
(資本金1億円以下)
30% 18% 25.5% 15%
公益法人等、協同組合(単体)及び特定の医療法人等(単体) 22% 18% 19% 15%
公益法人等、協同組合(単体)及び特定の医療法人等(連結) 23% 19% 20% 16%

※ 法人税率(国税)の4.5%引き下げと法人住民税率(地方税)の維持により、法人実効税率(国税と地方税を合わせた税率)は現行の40.69%が35.64%となる(東京都の場合)。


2.減価償却制度


● 定率法の償却率: 定額法の償却率の2.5倍から2.0倍へ変更(償却率の引下げ)
● 平成23年4月1日以後に取得をする減価償却資産に適用


3.欠損金の繰越控除額の制限

● 欠損金の繰越控除限度額に制限
   ☛ 繰越控除限度額:繰越控除前の所得金額×80/100
● 中小法人等(資本金1億円以下の会社、公益法人等、協同組合等)は現行制度を維持
● 平成23年4月1日以降に開始する事業年度より適用


4.欠損金の繰越控除期間の延長
● 繰越期間の延長:7年(現行) ⇒ 9年
(欠損金の繰越控除を受けるには、その期間内の帳簿保存が要件)
● 平成20年4月1日以後に終了した事業年度に発生した欠損金が適用対象


5.貸倒引当金制度
● 適用法人を銀行、保険会社等と中小法人等に限定
● それ以外の法人は経過措置により限度額を徐々に減額


6.寄附金の損金算入限度額の減額
● 一般の寄附金の限度額:(資本金等×0.25%+所得金額×2.5%)×
1/4
    (1/2→1/4に引き下げ)
● 特定公益増進法人等への寄付金の別枠の損金算入限度を上記金額だけ増額


7.雇用促進税制
●適用法人:公共職業安定所の長に「雇用促進計画」の届出を行った法人
●適用要件:一般被保険者の数が前事業年度末に比較して10%以上かつ5人以上(中小企業者等については2人以上)増加
●税額控除:増加した被保険者数×20万円の税額控除
(ただし、税額控除額は当期の法人税額の10%(中小企業者等は20%)を限度
● 平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する事業年度に適用


Ⅱ 消費税

1.消費税の免税事業者の要件見直し

● 現行の免税事業者で、以下に掲げる課税売上高が1,000万円超の事業者は、免税事業者とはならない
 イ 個人事業者のその年の前年1月1日から6月30日までの間の課税売上高
 ロ 法人のその事業年度の前事業年度開始の日から6ヶ月間の課税売上高

●適用時期: 上記のその年又はその事業年度が平成24年10月1日以後に開始するものについて適用


2.消費税の仕入税額控除制度の見直し

● 対象:課税期間の課税売上高が5億円超の事業者(5億円以下の事業者は現行どおり)
● 課税売上割合が95%以上の場合、全額仕入税額控除ができる現行制度は適用不可
● 平成24年4月1日以後に開始する課税期間から適用

前回に引き続き平成23年度税制改正大綱に関する話題です。今回は相続税と贈与税です。改正の概略のみお知りになりたい方は、【ポイント】をご覧ください。

 

【ポイント】  

1.相続税・贈与税の見直し

★ 相続税の基礎控除の縮小=増税
  ☛ 3,000万円+600万円×法定相続人数
    (従来:5,000万円+1,000万円×法定相続人数)

★ 死亡保険金の非課税限度=要件強化
  ☛ 500万円×法定相続人数(未成年者、障害者、生計を一にしていた者に限定)
    (従来:法定相続人に限定事項なし)
    
★ 相続税率構造の見直し=増税
  ☛ 最高税率が50%から55%へ引き上げ(実質的に増税)

★ 未成年者控除・障害者控除の引き上げ=減税
  ☛ 未成年者控除:20歳までの1年につき10万円に
  ☛ 障害者控除:85歳までの1年につき10万円(特別障害者は20万円)


2.贈与税率構造の見直し

★20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合=減税
  ☛ 実質的に減税(贈与の促進)

★上記以外の場合=増税
  ☛ 相続税率の見直しに連動

★相続時精算課税制度の適用対象者に関する改正(要件緩和)
  ☛ 受贈者の範囲に20歳以上の孫(現行推定相続人のみ)を追加
  ☛ 贈与者の年齢要件を60歳以上(現行65歳以上)に引き下げ

 

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